山田の大学時代とホンダ姓の登場がダブルで新山田に差し支えたため、間髪入れず除外したネタです。が、改めて見ると、ホンダ姓さえなければ支障なかったかもしれません。


 
 
「イチさんって大学生ェん時、何やってたの?」
 佐藤弟の質問に、田中と佐藤兄と鈴木も山田を見た。
 ビールを啜りながらテーブルの上でちまちまとイカを割いていた山田が、はぁ? と顔を上げた。
「何ってお前、ガクセーやってたに決まってんじゃん」
「とか言われても想像つかねぇんだもん」
「そういや誰も知らねぇしな、このメンバーん中で。山田の大学時代」
「ンなこと言ったらお前ら、佐藤の高校時代だって誰も知らねぇし鈴木なんか大学も高校も中学も小学校も幼稚園も、誰も知らねぇだろ?」
「や、俺は知ってっけど、高校ん時の兄貴とか」
 佐藤弟が珍しく控えめな感じでツッコんだ。
「俺はまぁ、どうせ学年違いますし」
 鈴木がよくわからない理屈で逃げた。
「大学ん時、友達とかいたのかよ山田?」
「何言ってんの? いたに決まってんじゃん。あ、そん中のひとりが今度結婚すっからぁ、結婚式だって出るんだからな」
「何、威張ってんだ?」
 どこかで携帯の着信音らしき音声が聞こえ出した。
 それが百パーセント着信音だという確信を誰もすぐに持てなかったのは、聞こえてきたのが「出ちゃいけない……!」と警告する稲川淳二の押し殺した声だったせいだ。
 山田が冷蔵庫の上から携帯を取った。
「マツダぁ? 来週の件だろぉ?」
 電話に出るなり本題に入る山田の声を聞きながら、他の面々は何となく思った。
 ヤマダにマツダか。マとダが共通してる。
「あと誰来んの? 俺が知ってるヤツ……ホンダとかは?」
「クルマ屋かよ?」
 佐藤が呟いた直後、山田が声を上げた。
「えーっ! マジで? トヨタも来んの?」
「──」
「──」
「──」
「──」
 もはや『ダ』繋がりだの『田』繋がりだのという甘っちょろい考えのヤツは一人もいなかった。ホンダが本田だろうが本多だろうが、そんなことはどうでもいい。
 もしかして、それらはコードネームか何かじゃねぇのか──?
 四人が怪しんだ直後、いくら何でもまさかそこまではと思っていた名前が山田の口から飛び出した。
「えぇマジィ? ニッサンも来んのかよォ?」
 四人はもう我慢できなくなって一斉に声を上げた。
「ニッサンまでいんのかよ!」
「ありえねぇだろ、ニッサンとかって名前!」
「日本人ですか? それ」
「大丈夫なのかよイチさん、ソイツら!」
「は? 何お前ら? ……あぁいま、会社のヤツらと飲んでて。悪ィなうるさくてよォ──うん、うん、わかった。じゃあ来週なぁ」
 電話を切った山田が、馬鹿にしたようなツラを四人に向けた。
「何喚いてんの? 人が電話してる時に。てかニッサンとかって名字あるわけねぇだろ、西だよ西」
「は……?」
 西。西さん? にっサン?
「なんで西だけサン付けなんだよ」
「勝手じゃねぇかそんなの」
 やっぱ絶対コードネームだ。山田以外の四人は思った。
「そーいや……」
 呟いた田中を、田中以外の四人が見た。
「いるな、ここにもひとり。クルマ屋繋がり臭ぇヤツが」
 田中と佐藤兄と佐藤弟と山田の目が、鈴木に向いた。
「いっそ、西を外してスズキを入れるっての、どうだ?」
「あぁ、そっちの方が何かスッキリすんなぁ」
 
 
【END】

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