2009元旦と同じ理由で、何となく……気分的に下げました。
もともとは弟の高校文化祭の女装コンテストの話だったものが、大層チープなネタで終わりました。新山田の都合によりラストを一部削除。


 
 
「あ。オレぇ、いいもん持って来てたんだよねーっ」
 佐藤弟が言い出したのは、いい加減夜も更けて面々の瞼が重くなり始める頃だった。
「じゃーん」
「じゃーんって古いなお前、いくつだ」
 まず佐藤兄が言い、
「つーか何ソレ、どっから奪ってきたわけ?」
 山田が言い、
「つーかどーすんの? ソレ」
 鈴木も言い、
「出所は明らかなんだろうな」
 田中が締めた。
「元の持ち主がわからないのも夢があっていいかもしんねぇけど、ちょっとネガティヴ思考で妄想したら耐えらんねぇモンがあるぜ?」
「あぁ……どっかの女装マニアのオッサンが夜な夜な楽しんだ挙げ句の古着とか……?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! 俺の元カノのだからぁ。ていうか元はそのネーチャンの?」
 お年頃特有のダルそうな滑舌で笑顔を見せ、アルコールで超上機嫌な佐藤弟がいそいそと床に広げたものは、女子高生の制服一式だった。
 白いブラウスにチェックのミニスカ、アイボリーのセーター。ただし半端なことに、リボンやソックスなどの小物類はない。
「予備でネーチャンのおさがりを持ってたんだけど、いっかい着せられてさぁ俺ぇ。カノジョが面白がって。んで、似合うからあげるよってくれたワケ」
 社会人組は一斉に男子高生を眺めた。
「マジで着たのか弟……」
「似合う……?」
「うん結構イイ感じだったよ、俺?」
 社会人組はコメントを控えた。
 女子高生の制服で着せ替えごっこをするカップルというのは、ちょっと理解の範疇を越えていた。
「で、ここに持ってきてどーすんだ? 着てみせてくれんの?」
「俺じゃなくってぇ、イチさんに着せてみてぇなーって思って」
「は?」
「え?」
「山田?」
 佐藤と鈴木と田中は山田を見た。
「うんそう、前から思ってたんだけどぉ、来るたんびに忘れてきて。んで今日やっと思い出して持ってこれたってワケぇ」
「お前、いくら何でも山田かよ?」
「男である前に、20代半ばだぞコイツ。女顔でもねぇ」
「いーじゃんいーじゃん、なぁなぁイチさぁん、ダメ?」
 佐藤弟が両手の指を組んで首を傾げ、可愛らしく『お願い』のポーズを見せると、
「着てやってもいいぜぇ」
 山田はヘラッと笑ってあっさり答えた。
「え、マジで!?」
「待てよ、入んのか? サイズ」
「いや弟でも入ったんなら、全然入るんだろうけど……」
「山田さん、犯されますよ?」
 しかしギャラリーの懸念も、既にアルコールが回りきってるらしい山田には届かない。
 全く聞こえない様子で制服セットをひっ掴み、山田はさっさと自室に入って行った。
 この場で脱ぎ出してもおかしくない酔っ払いっぷりだったというのに、変身して現れるというサプライズ効果でも狙ってるんだろうか。
 そして2分後。
 やたら勢いよく、山田の部屋の入口が開いた。
 全員の目がそちらへ向く。
 そこには、紛れもなく女子高生スタイルの山田が立っていた。
 ただし、肩幅に開いて立つ素足がなんだか妙な違和感だった。しかもセーターは着ず、やさぐれたリーマンのごとく無造作に左肩に引っかけてある。
「──」
「──」
「──」
 社会人組が言葉を失っていると、佐藤弟がうっとり呟いた。
「イチさん……カワイイ」
「え!?」
「マジかよ」
「カワ……イイ?」
 でもまぁ、すたすた近寄ってきて床に胡座を掻いた山田を改めて眺めれば、特別目を覆いたくなるような惨状というわけでもなかった。
 まず鈴木が言った。
「うーんまぁ、全くダメってこともなくはない、と言えなくもない気がしなくもないですね」
「超回りくどいんだけど鈴木」
 山田が言って、あたりめを噛みちぎる。
「こうして見ると脚細ぇな、お前」
 山田のむき出しの脚を眺め、田中が呟く。
「イチさん……モモ触ってもいいスか……?」
 身を乗り出しながら、佐藤弟も呟く。気のせいか微妙に息が荒い。
「バッカお前、高ぇぞオレはぁ」
 言って缶ビールを傾ける山田の目は、酔いのせいか気怠げに潤んでいた。
「イチさん、ちょっとだけ」
 弟が更ににじり寄る。
「やめろって、ちょっと……」
 笑いながら身を捩る山田の内腿に、佐藤弟が手のひらを突っ込んだ。
「うっわ、おっ前、内側に入れんのやめろよ」
「脚あんま開くなよ山田、そのパンツが見えると現実を突きつけられる」
「俺のパンツに文句あんのか佐藤?」
「めくらないで下さい山田さん」
「そうそう、パンツはちゃんと隠して……」
「って田中お前、ヤラしい触り方すんじゃねぇ」
「じゃあ、こういうのはどうだ?」
 言って横合いから山田の腹を抱き寄せた佐藤兄が、ブラウスの裾から手を差し入れた。
「あーっ、ズリィよ兄貴ぃ、何やってんだよぉ」
 弟の憤りを尻目に、兄の腕はブラウスに深く潜っていく。
「ちょ……、あ」
 山田が眉を顰めて小さく息を吐いた。
 布地の下で佐藤の指が何をしているのかは、ギャラリーからも一目瞭然だった。
「んっ……やめ、やりすぎだろ佐藤っ……」
「うわ、ちょっとイチさん、めちゃエロい」
 呆然と呟いた佐藤弟が、突然声を張り上げた。
「ってか兄貴! マジ、ズリィ! 俺もイチさんのいろんなトコ触りてぇよっ」
「触ればいいじゃねぇか」
「おい佐藤っ、お前、人を何だと……ちょ、マジでやめ」
「つーか、このスネ毛? 薄い方だとは思うけど女子高生にしちゃ生えてるよなぁ」
 田中が言って、ふくらはぎを掴み上げる。
「剃るか」
「え? 剃んの?」
 佐藤弟が目を丸くする。
「ヒゲ剃り持って来いよ佐藤」
「え? マジで剃んの?」
「洗面台んトコにあっから取り行けよ田中」
「おいお前ら、人を何だと……」
 抵抗しかける山田のブラウスから手を抜き、佐藤が背後からガッチリ抱き竦めて押さえ込む。
「女子高生だろ?」
「ムダ毛のお手入れ怠んなよ」
「わぁ、ツルツルになったイチさんの脚、すっげぇ触りてぇ」
「んなコトしたら、人前で脱げねぇだろ!?」
「どこの誰の前で脱ぐんだよ山田」
「女に決まってんじゃんっ」
「今いねぇじゃねぇか」
「隠してんだよ!」
「見栄張ってんじゃねぇよ、ほら、大人しくしてろって」
「ふざけんなよ、ちょ、あ、待て、待てっ……あぁっ」
「イチさん脚キレーだから、ツルツルになったら女みてぇ」
「こら弟っ、頬ずりすんなっ、舐めんなっ!」
  
 
 朝。
 ガンガンする頭を抱えて床の上で目覚めた山田は、そこら中に転がる雑魚たちを眺めたあと、ひとり平気なツラで煙草を吸ってるザルの鈴木を見た。
「何か……すげぇ騒ぎになってた気がすんだけど……何がどうなったんだ?」
「いえ、別に?」
 
 
【END】

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