佐藤のバレンタインの収穫の中には、ずいぶんな変わり種が混ざっていた。
「へー、すっげぇ! こんなモンくれたりすんだぁ」
 食卓の上でソレをためつすがめつしながら、山田はいたく感心している。
 ソイツはキレイなクリアブルーの棒状の物体で、パッと見、前衛的なデザインのガラス工芸品かと思ったが全然違った。弾力のあるゴム製で、モチーフがまず芸術品とはほど遠い。
 なんたって片方の先端部は、どう見たってチンコのカタチだった。
「何考えてこんなモンくれんの?」
「知らねぇよ。ソレ使って遊ぼうってことじゃねぇの、やっぱ」
 向かい側で、缶ビールを手にした佐藤が煙草に火を点ける。
「んで遊んだわけ?」
「いくら何でもそこまで積極的な女、ちょっと引くって」
「えーもったいねぇ、せっかくのお誘いじゃん」
「じゃあお前に権利を譲るよ」
 
 
 その夜、山田はヘンな夢を見た。
 夢の中でなぜか山田は、大人のオモチャの通販業を営むネット店主だった。それもなぜか、売れに売れてる業界トップクラスのアダルトショップだ。
 そして自宅兼事務所に、なぜか大人の玩具メーカーの営業がやって来た。佐藤だった。クリアブルーのスティックを売り込みに来たのだ。
 見た目の良さ、大袈裟な電動グッズと比較したお手軽さ、もちろん機能の良さと効果のほど云々を、現実の世界ではどちらかといえば口数が少ない方の佐藤らしからぬ饒舌っぷりで説明している。
「でもさぁウチ、電動グッズが主流なんだよなぁ」
 応接用兼寝床であるソファにダラリと背中で凭れて、山田は煙草の煙を吐いた。
「手で動かさなきゃなんねぇのなんか、面倒くさくねぇ?」
 夢の中でも山田は面倒くさがりだった。
「人工的な振動とはまた違う楽しみがありますよ」
 営業マン佐藤は真剣だった。何しろ、今月中にコイツを一万本売らなきゃ会社が潰れるというのだ。一万本とはバカげてる。夢を俯瞰しているもう一人の山田は思った。
「お願いします」
 簡易なロウテーブルの向こうで椅子に座っていた佐藤は、最後には立ち上がって深々と頭を下げた。まぁまず、現実にはありえない。
「俺に何本買えっての?」
「できれば三千本ほど」
 やっぱりバカげてる。
「はぁ? 三千本? 捌けっかよ、ンなの」
「大丈夫です、売れます。このお手軽さでこの気持ち良さ、しかもこの価格。飛ぶように売れること間違いなしですから」
 山田は佐藤の営業シーンなんか見たことないから、かなり適当だった。
「だってそんなの、わかんねぇじゃん。どんだけ気持ちイイかなんて」
「山田さんが試して具体的かつ魅力的なレビューをつければいいじゃないですか」
 山田さん!? ──俯瞰している方の山田は鳥肌を立てたが、夢の中のネット店主はそんなことには反応せず、あまつさえこんなことを言い出した。
「んじゃ、やって」
 まぁまず、現実には絶対言わないセリフだ。
 
 
 いきなり場面が飛んだ。
「ん……んッ」
 ソファの上で下肢をさらして横たわる山田は、ケツの中から這い上がってくる刺激に背筋を反らした。深く折られた片脚を営業マン佐藤の手が押さえ、もう片方の脚はソファの背にかかっていた。
 グッズを抜き差しされるたびに腰が跳ね、たっぷり注ぎ込まれたローションがはしたない音を立てる。なんたってアダルトグッズショップ、必要なアイテムは揃っていた。
「あ、あっ……!」
 明るい室内で弱い部分を幾度となく責め立てられ、山田は声を震わせて身悶えた。
「どうですか? お手軽な快感は」
「やッ、はぁっ、そこ……やめっ!」
「まだ細い方しか試してないんですけどね」
 言って佐藤はグッズを引き抜き、今度は形状の違う反対側をあてがった。チンコを象った方だ。
 ソイツが入口を割り、粘膜をかき分けて侵入を開始した途端、山田の唇から悩ましげな溜息が漏れた。
「あ……」
 オトコのカタチが奥まで入ってくる。無機質な玩具をしっとり包み込み、絡めとって歓喜の痙攣を繰り返す山田の内部を、何がなんでも三千本売りつけたい営業マンは懇切丁寧に責め続ける。
「ぃ、あッ……イヤ、だ、もぉっ」
「三千本、買ってもらえますよね?」
「買うっ、買うからぁ!」
 山田はまず現実にはありえない涙混じりの声で、やはり現実にはありえないセリフを口にした。
「あ、あッ、も……ホンモノ──入れろよぉっ!」
 
 
 容赦のない強引さで奥深く貫かれる衝撃に、山田は声を上げて目を開けた。
 暗い。アダルトネットショップの事務所なんかじゃない。自分の部屋だ。
「……あァ?」
 見上げると、人影が覆い被さっていた。声がした。
「お前、超喜んでたじゃねぇか。オモチャ」
 営業マン佐藤だった。
「しかも本物入れろとか、超積極的じゃん?」
 
 
【END】

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