「ヒマだなぁ」
 山田が呟いてベッドに倒れ込むと、床の上で缶ビールを手にした男たちがどうでもよさげに各々応じた。
「あぁそうだな」
「大人の自由時間と言えよ」
 ゴールデンウィーク明けの次の週末。
 山田の巣には、昨夜の飲みからなし崩しに泊まった佐藤と田中がいた。
 外は輝かんばかりの晴天だというのに、やることのない三十代の野郎どもというのは本当にヒマな生き物だ。
「あー」
 頭の下で手を組んで寝転がったまま、山田がまた呟いた。
「緑がキレイだぜ……」
 佐藤と田中が山田を見た。
 瞼を閉じた山田の顔面は、心なしか至福の表情にも見えた。
「大丈夫かコイツ」
「いよいよなんじゃねえか?」
「小鳥のさえずりって、心洗われるよなぁ」
「熱計ってやったほうがいんじゃねぇか」
「ゆうべおんなじモン食ったろ、俺らも」
「食いモンのせいかよ? 腹じゃなく頭がイッてるみてぇだけど」
「お前ら!」
 山田が目を三角にして跳ね起きた。
「ヒトが仮想現実世界で高原の休日を満喫してるっつーのに邪魔すんじゃねーよ!」
「バーチャルで高原リゾートしてたのか、お前」
「てか緑だの小鳥だの、オッサンが妄想する休日にも程があんだろ」
 佐藤が言って手を伸ばし、山田の箱から煙草を抜いてライターを擦った途端、山田がまた喚いた。
「高原にタバコ臭はいらねぇ!」
 今度は佐藤が目を三角にした。
「お前、それがいつも俺のアイコスを非難してるヤツの言うことか?」
 加熱式タバコに移行した佐藤をヘタレ呼ばわりし、山田はいまだに従来の紙巻煙草を愛飲している。ちなみに田中は事情により目下禁煙中。
「うるせぇ、俺の清々しい新緑リゾートを穢してみやがれ!? なんかスゲェ目に遭わせてやるからなっ」
「どんなスゲェ目か考えてあんだろうな、山田」
「まぁ、夢くらい見させてやれよ佐藤」
「やっほー、イチさーん!」
 声とともに玄関のドアが開いた。
 咥え煙草の佐藤弟が盛大に煙を吐きながら現れ、新緑の高原リゾートは一瞬にして穢された。
 
 
【END】

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