「佐藤、経理が請求書出せってよ」
 通りかかった田中に声をかけられ、佐藤は舌打ちした。
「もうそんな時期か? めんどくせぇなぁ」
「まとめとけよ、その都度よ」
 言ってそのまま喫煙所に向かった田中は、ちょうど見知った顔を見つけた。
「お、鈴木」
「あ、お疲れさまっす」
「まだ山田と一緒にやってんの?」
 田中が火を点けて煙を吐き、訊いた。
「やってますよ。あとちょっとですけど」
「早く離れちまえよ。ロクなことねぇぞ」
「どういう風にですか?」
 鈴木が笑い、さぁなと田中も笑った。
「アイツは変わってるヤツだからなぁ」
「変わってるといえば、山田さんと佐藤さんの共同生活も不思議ですよねぇ」
「何が?」
「同じアパートの部屋に住んで同じ会社に勤めてんのに、家で交流しないし出勤も別ってのが」
「不思議じゃねぇ。ヤツらは変人だ」
「佐藤さんもですか」
「そう」
「田中さんが山田さんと高校一緒なんでしたっけ」
「そう」
「その頃はどんな感じでした? 山田さん」
「どうって──まぁ、今と変わんねぇかな」
 田中が言ったとき、噂の張本人が現れた。
「鈴木、行くぞ」
「あ、はい」
 鈴木が答えて煙草を消そうとした。が、
「あ、待った。俺も一服してくわ」
 山田は急にそう言うと鈴木の指から煙草を奪って咥え、代わりに脇に挟んでいた書類封筒を鈴木に押しつけた。
「お前、そりゃねぇだろ」
「なんで?」
「鈴木ももう一本吸ってけば?」
「俺はもういいです」
 田中の勧めを、鈴木は苦笑して断った。
 
 
【END】

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