彼らの行きつけの店というものは特に決まっていない。
 ただ、前回はあそこだったから今日はこっち、というような暗黙の決まりごとはあった。
 だから場所を打ち合わせていなくても、なぜかこうしてちゃんと集まることができた。
「おせーな、二課」
「お前ら早すぎなんだよ。一課だけ定時が違うんじゃねぇか?」
「お疲れ様です」
「あ、どうも。新人くん?」
「鈴木くんだろ」
「はい鈴木です」
「山田なんかの下についちまってよぉ、先が思い遣られるよなぁ」
「お前の下よりマシだぜ佐藤」
「いいから座れよ、山田&鈴木」
「お飲物さきにお伺いしてよろしいですかぁ」
 いつのまにか忍び寄っていた店員のオネーチャンが二課の二人の背後で声を上げた。
 とりあえず生。
 白く凍ったジョッキが運ばれてくると、既に何杯目だかわからない一課の二人も改めて乾杯する。
「あー、疲れたよなぁ」
「鈴木君、山田と仕事してどう?」
「いろいろ勉強させてもらってます」
 鈴木の回答は当たり障り無く曖昧だった。
「コイツといて何をどう勉強できるんだか俺にはわかんねぇ。あ、俺、田中」
「俺、佐藤」
「みなさん同期なんですよね?」
「そう。んで、田中と俺は大学が一緒で」
 佐藤が言い、
「山田と俺は高校が一緒」
 田中が言う。
「鈴木君はどこ住んでんの?」
「初台です」
「へぇ」
「皆さんは?」
「赤羽」
 田中が言った。
「俺、山田んち。だから目白」
 佐藤が言った。
「はぁ?」
 田中が呆れたような声を出し、鈴木とともに山田を見た。
 山田は頷いただけで何も言わず呼び出しボタンを押し、田中と鈴木は次に佐藤を見た。
「うちのアパート取り壊しになってさぁ、次が見つかるまで山田んちに居候してんだよ」
「へぇ、初耳っす」
 鈴木が相槌を打つ。
「俺も聞いてねぇし。てか何だそれ、取り壊し決まったら早く探しとけよ、引っ越し先ぐらい」
「あー、時間なくてなぁ」
「お伺いしまぁす」
 さっきとは違うオネーチャンがやってきた。
「あ、サイコロステーキとカンパチの刺身ください」
「俺、ササミ梅シソ串とねぎ間、三本ずつ。あと鮭茶漬け」
「いきなり茶漬け食うのかよ山田」
「俺の勝手だろ?」
「その三本っつー半端なオーダーはどういうつもりだよ?」
「俺が三本ずつ食うに決まってんじゃん」
 つまり山田のオーダーはいずれも、取り分けるつもりはないと宣言したも同然だった。
 佐藤が息を吐いてオネーチャンに向き直った。
「あと塩昆布キャベツと納豆オムレツ」
「あ、俺も納豆オムレツ」
 佐藤の注文に山田が乗っかると、すかさず田中がツッコんだ。
「一緒でいいじゃん」
「やだよ」
「一緒に住んでんだし」
「カンケーねぇしそれ。部屋貸してるだけだっつーの。あとは何してるか知らねぇもん」
「納豆オムレツ、おひとつですか、おふたつですか?」
「ふたつ! あとポテトチーズ焼きと茄子味噌も」
 山田が性懲りもなく付け加え、
「とりあえず以上で」
 鈴木と田中と山田の声が微妙なズレでハモった。
「恥ずかしいな、お前ら」
 煙草に火を点け、佐藤が言った。
 
 
【END】

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