カーテンを透かして仄かに月明かりが差している。
 肩を揺すられて目を覚ましたら、ベッドの端に座る同居人がぼんやりと見えた。
「んぁ……佐藤? なんだ、どうした」
「起こして悪ィな、頼みたいことがあんだ」
「いま何時?」
「三時半」
 山田は俯せになって頭をもたげ、目を擦った。
「こんな時間に頼みって何だよ……」
「うん、さっき目ェ覚めたら、なんか突然やりたくなってよ」
「そうか、頑張ってオナれ」
「本番やりてぇんだよな」
「貸すカネならねぇぞ」
 言って山田は枕に顔を埋めて目を閉じた。
 頭上から佐藤の声がした。
「カネなんかいらねぇ、ケツ貸してくれ」
 さっさと眠りかけていた山田の頭に、その言葉は通常の五倍くらいの時間をかけて届いた。それから認識するまでに、また五倍。
 さらに認識から理解に至る前に山田は訊き返した。
「──いま、何つった?」
「ケツを貸せ」
「お前まさか、俺のケツで本番やりてぇってか?」
「そう」
「──」
 カネがない上にこんな時間なら、確かにソイツは合理的で手っ取り早い解決策なのかもしんねぇ。山田は思った。
 が、客観的にはそう思えても、自分の尻アナを貸せと言われればハイそうですかとは答えられない。
「嫌だ」
「タダとは言わねぇ」
「カネねぇんじゃなかったのかよ」
 カネを払うと言われても、それはそれで困るけど。
「カネがねぇとかひとことも言ってねぇけど、カネを払うって言ってんじゃねぇ。お前も気持ちよくさせてやるよ」
「つまりタダ同然じゃねぇか、カネがねぇわけじゃねぇクセに」
「贅沢言うな、じゃあカネ払えばいいのかよ?」
「そういう問題じゃねぇし、つーか俺、お前のケツに入れてぇとか思わねぇし」
「誰が入れさせてやるっつったよ?」
「入れずにどうやって気持ちよくなりゃいいんだよ? 俺は」
「いいから、とにかく言うこと聞けって」
 言うが早いか足元から布団を剥がれて、山田は飛び起きた。
「ダメだっつってんだろ!」
 途端に口を塞がれ、その勢いのまま上半身を押し返されて後頭部が枕に沈む。
「デケェ声出すなよ、近所迷惑だろ」
 ──近所の迷惑は配慮できて、同居人の迷惑は無視かよ!?
 顔面の下半分を覆う手のひらに抗議を吐き出しながら、山田は脚を振り上げた。が、佐藤を蹴飛ばす前に股間を引っ掴まれて抵抗を封じられ、予想外に巧みな手つきで弄られて、意志とはかかわりなく血流が集中し始めてしまう。
「お前も溜まってんだろ? なぁ山田」
 囁いた同居人を睨みつけ、山田は頭を振って口を押さえる手からどうにか逃れた。
「余計なお世話だっつの!」
 しかし構わず腹から突っ込まれた手にナマで掴まれて、一瞬頭の中が白くなる。同時に、それまでとは明らかに違う快感に眩暈を覚えた。
「佐藤っ……マジでやめろって!」
「なんでだよ、気持ちいいんだろ?」
「誰が──あ、ちょっ、さとっ」
 先端を擦られてビクリと痺れが走った。そうして油断した隙にヨレヨレのスウェットをパンツごと引き剥がされ、動転してる間に膝を押し開かれていよいよ焦りが募る。
「佐藤! シャレになんねーぞっ」
 慌てて身体を起こそうとしても脚を折られて上から体重をかけられていて、ままならない。しかも露わになったケツの奥に指が触れて危機感はマックスだ。
「こら佐藤っ、寝る前にクソしてっからな俺!」
「ウソ言うんじゃねぇよ、クソしたのは風呂入る前だろうが?」
 ──なんで知ってんだ?
 山田の脳裏に疑問が湧くと同時に佐藤が言った。
「お前の習慣じゃねぇか」
 ──家ん中じゃ普段ほとんど交流ないってのに、なんで俺のクソの習慣なんか把握してやがんだ?
「佐藤お前、実は俺のストーカーじゃねぇのか?」
「何言ってんだ、一緒に住んでりゃそれくらいわかるっつーの」
 言葉とともに指先が潜り込んできて、山田の下肢が引き攣った。
「おい!」
「思ったより柔らけぇんだな」
「おっ前、女の後ろに突っ込んだことねぇのかよっ?」
「は? ねぇよ。お前あんの?」
「ねぇけど! お前はやりまくってっからあんのかと──てかダメだって!」
 肘を使ってズリ上がろうとする山田の腰を、佐藤の両手がアッサリ引き戻す。その勢いに任せて深く指を捩じ込むと、山田が枕の端を握り締めて仰け反った。
「ちょっ、マジで!」
「じっくり慣らしてやるから大人しくしてろよ」
「ンな手間かけるぐらいなら、んっ……どっかヤりに、行った方が早ェんじゃねーのかよっ!?」
「でも俺いま、お前とやりてぇんだよな」
「なんでだよ!? てか俺はいま超眠ィしっ」
「寝てれば?」
「寝かせてくれよ!」
「寝ててもいいぜ?」
 佐藤が言って、入れた指をソロリと動かす。
「ぁ、あっ……やめろっ」
「つーかお前、やめろとか口ばっかであんま抵抗してねぇじゃん?」
「だって眠ィんだからっ……んン!」
 後ろのアナを解されながら前を掴まれ、切羽詰まった声が上がる。
「てかだからっ、眠ィんだから寝かせろよ!」
「お前って、そういうとこ掴めねぇよな」
「掴んでんじゃねーか、ガッツリ!?」
 
 
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