クソ、なんでココなんだよ──!?
 見慣れてはいるけど自室ではない天井を睨みつつ、腹の奥に刺さった男の質量に仰け反りながら、山田は何度目かのツッコミを胸の裡で喚いた。
 脱衣所でのキスのあと、力の入らない身体を衝撃かつ屈辱のお姫様抱っこで運ばれた先は、何故か同居人のベッドの上だった。
「この部屋で寝ろって、山田さん言いましたよね?」
「ここで寝るのはお前だけだっ」
「山田さんの言うように俺はまだ大人じゃないんで、ひとり寝は寂しいんですよ。それに、山田さんのベッドだと結ぶところがないじゃないですか」
 だからこっちのほうが都合がいいんです。小島はそう言って笑いながら、ブラックアイアンのフレームにネクタイを括り付けた。
 そこからの展開は、まぁ下手な団地妻シリーズと遜色ない。
 女を食いまくりの後輩は経験をフル稼働し、使えるスキルは余すところなく使い、本当に野郎相手が初めてなのか疑わしいほど的確に山田の身体を弄り倒して懇切丁寧に快感を与えた。
 今もそうだ。己を満たすためじゃなく、山田を気持ちよくするためだけのような小島の動きに、ケツのみならず脳ミソの芯まで犯されてるような気分になる。
「ッ、ん──あぁ……!」
 ベッドヘッドのパイプを握りしめて喘ぐ山田を、後輩が嬉しそうに眺めていた。
「山田さん、すっごいイイ顔しますよね。中もすっごいエロいし。この身体を知ったら、そりゃあ佐藤さんも執着しますよねぇ」
「はぁ? 佐藤が何……」
「ねぇ山田さん。佐藤さんのこと好きなんですか?」
「だから──あっ」
 浅いところまで抜かれた小島が再び深く入ってきて、山田は背中を撓らせた。仰け反った喉に小島の唇が触れる。
「佐藤さん、今ごろ何してんでしょうね?」
「はぁ? 知るか──」
「女とデートでしょうか、やっぱり」
 何がやっぱり? 言おうとした山田の口は、下の口から送り込まれた刺激に別の声を上げていた。
 何度も繰り返し弱いところを責められ、ついでにド真ん中で存在を主張するモノを手際よく擦られて、甘ったるい呻きがとめどなく漏れてしまう。
「ここ突かれたら声抑えられないんですねぇ、山田さん」
「ッく──んあっ、お前コレぜってぇ野郎としたこと、あ……んだろ!?」
「ないですよ。山田さんと違って男は初めてです」
「俺だって、んん、したことね……つーのっ!」
「まさか。こんな身体で初めてなんてあり得ないですよね?」
「はぁ? フザけんなよ何がこんな身体、あ、あっ……やめ、バカ──!」
 ひとしきり山田を悶えさせてから、小島は満足げな笑顔でさらりと言った。
「じゃあ、電話してみますか? 佐藤さんに」
「は……?」
「ほんとに山田さんと寝たことないのか訊いてみますよ。あと、こっちは今二人で楽しんでるけど、佐藤さんも大阪の女の子とお楽しみですか? ってね」
「──」
「そうだ。山田さんが我慢できないところを気持ちよくしながら電話する、っていうのはどうでしょう?」
「く──だんねぇこと考えてんじゃねぇよ……!」
「やらしい声、佐藤さんに聞かれたら困るんですか?」
「ンなの、佐藤じゃなくたって困るに決まってんだろーが!?」
「でも、せっかくイイ声で啼けてるんだから聴いてほしいですよねぇ?」
 言葉とともに男が掲げてみせたのは、見憶えのある──というより見慣れた、山田の携帯だ。
「おっ前、いつのまにっ!」
「山田さん隙だらけですよ。こんな大事なもの、俺の前に放置して風呂に入っちゃうんですもん」
「触んな、返せっ」
「返したって手が使えないじゃないですか」
 後輩はパイプに括り付けた手首を見て笑い、携帯に目を落とした。
「だから、代わりに俺がかけてあげます」
「バカ、やめろ……あ!」
 ケツの中に埋まってるモノを出し入れされて、ビクリと身体が跳ね上がる。同時に、目の前に差し出された携帯の画面を見て心臓が冷えた。
 そこには、今まさに同居人の携帯を呼び出し中である事実が示されていた。
「──ッ、……!!」
 弱点を突かれて歯を食い縛った直後、表示が『通話中』に変わるのを見て山田は弾かれたように顔を逸らした。
 微かに何かが聞こえてくる。佐藤の声だ。が、硬く目を閉じて込み上げる呻きを堪えるのが精一杯で、何を言ってるのか聞き取る余裕はまるでない。
 それから、どれくらい耐え続けたのか。
 やがて、山田さん──と囁く唇が耳に触れた。
「もう、声出しても大丈夫ですよ」
 バカヤロウ喋るんじゃねぇ聞こえちまうだろーが! そう喚きたくとも頑なに声を噛む山田の耳元で、後輩が優しげに続けた。
「ほら、もう切ってますから。見て」
「──」
 疑心暗鬼で薄く開けた山田の視界に、発信履歴の画面が迫った。リストの一番上に佐藤の名前がある。
「耐えてる顔も色っぽかったけど、俺まで声が聞けないのはつまんないですからね」
 が、小島が携帯を枕元に放った途端ソイツが震えて喚き出し、山田はビクリと跳ねた。
「!?」
「あぁ、佐藤さんからですね。出ますか?」
 画面を覗き込んだ小島が言う。
「出るわけねぇだろ!!」
「でも今こっちからかけたばっかりなのに、出ないのも怪しくないですか?」
「お前が余計なことすっから……あ、あっ!」
 前触れもなく中を抉られて全身が強張った。
 頭の近くで鳴り続ける、どこか苛立ったような着信音。いつ男の指が通話ボタンを押すとも知れない焦燥で必死に声を堪えるが、イイ場所を執拗に責められるうちに否応なく思考が霧散してしまう。
 次第に喘ぎを漏らし始めた唇を舌が這い、耳朶を噛んで舐め上げられると、山田は甘ったるい啼き声を上げて切なく腰を捩った。
「まったく……クセになりそうですよ、山田さんの身体」
「は、ぁっ──んン……!」
 呑み込んだ異物に粘膜がねっとり絡み、男の動きに合わせて締め付けては、しゃぶるように擦り立てる。
 着信音は、いつのまにか途切れていた。
 
 
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