玄関のドアノブを回すと鍵がかかっていた。
 もう一度鍵を差し込んで回すと、錠の外れる音がした。
 佐藤が入ったとき、ちょうど山田が風呂から出てきたところだった。スウェットを履いて、上半身は裸のままで頭からタオルを被っている。
「おい、鍵開いてたぞ」
「あ、そう」
「不用心じゃねぇか」
「別に盗られるモンねぇし、お前の部屋だってモノねぇだろ?」
 冷蔵庫から牛乳を取り出しながら言い、山田はパックに口をつけた。
 佐藤はネクタイを緩めながら食卓の椅子に鞄を置き、山田に近づいた。
 そのまま山田の背中を冷蔵庫に押し付ける。
「冷たっ」
 慌ててテーブルに置こうとした牛乳パックが倒れ、山田が声を上げた。
「ちょ、オイ、牛乳がっ」
 文句を垂れる山田の顎を捕らえて佐藤が覗き込む。
「お前、無防備すぎんじゃねぇ?」
 耳もとで言って耳たぶに舌で触れると、山田の身体が跳ねた。
「佐藤っ……牛乳」
「何だ」
「足が牛乳臭くなんだろ!」
 零れた牛乳が足元に水たまりを作っていた。
「黙れ」
 佐藤がひとこと言い、スウェットのウエストから片手を突っ込んだ。
 前触れもなく直かに握り込まれて山田が息を吐く。
 頭から掛かったままのタオルを佐藤が引き落とす。
「お前……酒クセぇぞ、佐藤」
 山田が呟く。
「文句あるか」
 佐藤が囁く。
「別に」
「じゃあ言うな」
「てか、帰るなり何だよ!?」
 少し語尾が震えていた。手の動きに伴って山田の呼吸が浅くなる。
「お前が悪い」
「何で──」
「馬鹿、自覚しろ」
「さと……ちょっ」
 それ以上の刺激を阻止しようと山田の手が佐藤の肩を押し返し、腹から突っ込まれた手首を掴んだ。
 本気で拒もうと思えばいくらでもできるのに、そうしないのは何故だろうと佐藤は思う。
「このままいけよ」
「俺いまフロ入った、ばっか……!」
 山田が顎を引き、上目遣いに佐藤を睨む。
 目を眇めて視線を受け止めた佐藤は、山田の背後の冷蔵庫に肘をついて顔を寄せ、囁いた。
「もっかい入りゃいーじゃん、俺が洗ってやるよ」
 
 
【END】

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