コイツは何を言ってるんだ?
 無言で眺める田端の前で、後輩はおもむろに己のベルトを外してジッパーを引き下ろした。
「何ごとも仕上げは自分で、ですよね」
「待て、もう自分の手を使ったよな……?」
「あぁ、指ですか? あれはほら、プールの前の消毒ぐらいな感じで」
「マジで何言ってんだお前?」
 何とか思いとどまらせようと焦る間にも、上野は下着ごとウエストを下ろしてご立派なイチモツを披露してしまう。
「なんでお前勃ってんだよ……!?」
「だって、こんなに太いものが埋まってる小さな穴を見てたら、そりゃあ勃っちゃいますよ」
 おかしい、勃起する対象がおかしくねぇか──!?
「大体ねぇ田端さん。何のためにサラミで慣らしたと思ってるんですか」
「いや何も聞いてねぇから知らねぇし!」
「えぇまぁ、話してませんでしたけど。でも穴を埋めるって言ったら究極はこれしかないですよね?」
「極めなくていいっ、てかお前な、モノで埋めんのとソイツで埋めんのとじゃ全然意味が違ってくんじゃねぇか……!」
「どんな風に?」
「穴を埋めてぇってだけなら、たとえ尻穴だろうが百万歩譲ってお前の変態性癖の充足ってことにしてやってもいい、けどソイツを入れちまったら単なるセックスだよな!?」
「だったら?」
「──」
 パウチの端を咥えて開封する後輩のしれっとしたツラを、田端は無言で見返した。
「田端さんの穴を埋めさせてくれたら、所構わずやたらと穴を埋めたがらず衝動を我慢する。そういう話でしたよね」
「そもそも、俺の穴を埋めさせたらなんて言ったっけ……?」
「言いましたよ」
 言ってない気がするけど思い出せなかったし、それよりも勃起したモノに粛々とゴムを被せてるド変態の手元が気になって、もはやそれどころじゃなかった。
「上野お前……」
「はい」
「女たちがお前のド変態っぷりにドン引きして次々去っちまうから、やれなくて溜まってるって正直に言えよ」
「正直に言おうが言うまいが、することは同じですよ?」
 まるで当然のように上野は言い、田端の両脚を押し上げながらのし掛かってきた。
「心配しなくても、前も責任持って処理してあげますから」
「いやそんなサービスは要らね──ちょっ」
 押されて浮いた尻の狭間にゴムを被った先端がぬるりと触れ、竦み上がる気持ちと裏腹に穴の縁がひくりと蠢く。と同時に圧迫されたそこがこじ開けられてド変態の先端を呑み、そうなるともうあとは止めようがなかった。
 ついさっきサラミを咥えていた粘膜の隘路は、またしても肉の棒切れを奥へ奥へと誘い込んでしまう。違うのは、まず太さ。サラミの比じゃない。それから直線か湾曲か、血が通ってるか否か。本体にくっついてるか否か、味がするか否か──いや、味はその口じゃ感じねぇ……いや、そこは口じゃねぇ……
「い──あっ」
「あぁ、すごいです田端さん。これまで出会った穴の中で間違いなく最高ですよ」
 興奮に目を輝かせて、自ら埋めた穴を食い入るように見つめるド変態。
「全っ然、嬉しく──ね……!」
「こんなに埋める欲求を満たしてくれる穴を何年も見過ごしてきたなんて、今まで何やってたんでしょうね、俺は?」
 できることなら定年か、せめて異動で離れるまで見過ごしてて欲しかった。
 ネクタイで括った足首を掴んで固定した後輩が、抉るように突き入れた腰を引いて、また押し入る。そしてまた引いて、また抉る。
「んんっ、動か……なっ」
「サラミとどっちがいいですか? 次回また好きなほうで埋めてあげますよ」
「あっ、ぁふっ……ふざけん……なぁっ!」
 喘ぎ混じりに声を上げた田端の口に、突然何かが突っ込まれた。
「んぐ……!?」
 まず面食らい、次に息苦しさに狼狽えて、最後にようやくソイツが何なのかを理解して血の気が引いた。
 なんと口に捩じ込まれたのは他でもない、さっきまで尻の中に埋め込まれていたサラミだった。
「!?」
「あ、そんな顔してなくても大丈夫ですって。ゴムは外してますから」
 そういう問題じゃねぇよな……!?
「そもそも田端さんがいけないんですよ。俺の目の前でそんなに穴を開閉させてたら、ついつい埋めたくなるじゃないですか」
 口を埋めんな、お前が埋めたいのは小せぇ穴のはずだろ……!?
「そのサラミ、田端さんの下の穴も上の穴も埋めたって思ったら、ますます食うのが待ちきれなくなりましたよ」
 下にも上にも入れたヤツを食うのかよ……!?
 恐るべきクソ変態っぷりに戦慄して意識が薄れかけ、でもここで気を失ったら身体中の穴に何されるかわかったものじゃないから必死で己をたぐり寄せ、せめてサラミからは逃れようと顔を背けかけたら、余計にノドまで突っ込まれて吐き気が込み上げた上、こんな脅しまでかけられた。
「上を埋めてるのが嫌なら、また下に入れてもいいんですよ? 俺のと一緒に」
「──」
 入るわけがない。絶対入るわけねぇ。
 だけどコイツは、穴をいっぱいに拡張して埋めることを楽しんでやがる。だから無理だろうが何だろうが捩じ込まないとは言い切れない。そもそも穴に対するこだわりにおいては常識なんか屁とも思わない、イカレた変態野郎だ。
「いいですか、手を離しますけど咥えててくださいね。口から抜けたら……わかってますね?」
 田端がコクコク頷くと、サラミから上野の手が離れた。味の付いた肉棒が口に刺さったまま取り残される。
「鼻の穴まで塞がないことに感謝してくださいよ」
 当たり前だ、息できなくて死ぬじゃねぇか──なんて憤りも、声にできない。
 大体、鼻の穴を何で塞ぐ気だ? 柿ピーのピーナツか? 既にサラミまで咥えてるってのに、そんなビジュアルと正面から相対して萎えたりしねぇのかよ?
 待てよ、もしもそれで萎えてくれるんなら、鼻にピーナツを突っ込んでもらったほうが得策なんじゃねぇか?
 が、いずれにしても下の穴を穿つ動きが激しさを増すとともに、股間で濡れてるものを掴んで擦られれば、憤慨や懊悩は瞬く間に彼方へと消え去ってしまった。
「あ、あ──ふぁ、あぁっ」
 悔しいけど上手い。ド変態とはいえ腐ってもイケメンのデキリーマン、さすがは女の穴を埋めまくってるだけのことはある。
 どこかイイ場所に当たったときの反応を上野は零さずキャッチして、執拗にそこを責めてくる。それに根元まで押し入られる都度、奥を突き上げる衝撃が堪らない。
「あぁ、ここにも穴がありましたね」
 ぬめる先端の窪みを指先で弄られ、サラミを咥える唇の端から呻きとともに唾液が溢れた。頬を伝う雫の感触が気持ち悪い。でも先っぽをぐりぐり圧されて、痛みを伴う快感に脳髄まで貫かれて、もうそれどころじゃない。
「んぁ、はっ……あ、あ!」
「ここはさすがに細いものしか入りそうにないですね。次までに何か探しておきますよ。芸がないけど、やっぱりカテーテルとか? 導尿用のやつとか買ってみましょうか」
 次って何だ?
 てか冗談じゃねぇ、埋めるだけじゃなく中身も出す気かお前、どんだけ変態かよ!?
「田端さんのこんな穴まで埋められるなんて、俺、信じられないくらい幸せです」
 そんな穴まで埋めていいなんて誰も言ってねぇ──
「んく、う、ぁ、はぁっ」
 自由を奪われたままの手足が震え始める。気持ち良すぎて死にそうだった。
「田端さん……すごくいい」
「ッ、あ──!」
 上の穴も下の穴も埋められて揺すられ、勃起したものを擦り立てられて半分意識を飛ばしながら、田端は口に突っ込まれたサラミに歯を立てて絶頂を迎え、着たままのワイシャツの腹へと盛大に体液を放った。
 
 
「歩み寄りって素晴らしいですねぇ」
 後輩が満面の笑みでもりもり食ってるのは、表面を水洗いして水気を拭き取り、スライスしたサラミだ。マジで食うとは恐れ入った。
「何が歩み寄りだ、ふざけんじゃねぇ、死ね」
 テーブルを挟んだ向かい側で目を三角にして缶ビールを傾ける田端は、上野から借りた部屋着姿だった。
 何しろスーツのパンツもワイシャツも、精液でドロドロのクシャクシャ。
 もちろんクリーニングは上野持ちとはいえ、これが金曜の夜だから許されるようなものの、ド平日だったらこのド変態をマジで絞め殺さなきゃならない。
「だけど田端さん、すごく良さげでエロくさくて、目なんかもうイッちゃってましたよ?」
「変態視点の歪んだ幻を語るんじゃねぇ、クソ変態が」
「何言ってんですか。俺はもう、手当たり次第に穴を埋めたがる変態は卒業ですよ。約束ですもんね」
 ビールを呷ってサラミをパクリとやった後輩は、まだレンコンの穴に残ってたゴボウを抜きながら整った面構えに蕩けんばかりの甘美な笑みを浮かべ、正面に座る先輩を穴が空くほど見つめた。
「これからは穴を見たら、田端さんの穴を何で埋めるかを妄想して衝動を抑えることにします。あぁ、考えただけでゾクゾクしますよ。今度は前と後ろダブルだなんて……ね? さて、何を使いましょうか──」
 
 
【END】

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