巻きって? と戸惑う間に引き抜かれた指が、さっさと3本になって戻ってくる。
「おまっ……まさか5本まで試す気じゃねぇだろうなぁ!?」
「まさか。ここから先は別のものを頼ります」
 別のもの──? ますます混乱する田端の穴がいっぱいに満たされ、圧迫感に呻いたら指が退いて安堵したのも束の間、抜けると思ったものを再び突っ込まれて、そのままゆっくり抜き差しが始まった。
「あぁっ? 何やって……」
「次に進む前に少し慣らしておきますね」
「はぁ? 何言って……」
「田端さんの穴、思ったより何でも埋めさせてくれそうで楽しみですよ」
「いやマジで何言ってんだ、何でも埋めさせねぇ──ってか、ちょ、も、それやめ」
 コンドームを被った指3本が中を前後するたび、腰がひくりと蠢いて手足が揺れる。
 何だかおかしい。気持ち悪いのに、何か別の感覚が混ざり始めてる気がする。
 まさか自分が尻穴なんかで感じてるとは思えない、思いたくないけど、実は結構イイもんだって話には聞いたりするし。
 じゃあ、やっぱりこれって感じてんのか?
 いやいや、のんきに納得してる場合じゃねぇぞ──俺。
 狼狽える田端の足首のネクタイを、後輩の片手が左右纏めて掴んで押し上げる。指を呑み込む穴が隠しようもなく明かりの下に曝され、愛おしげに見つめるクソ変態が緩急をつけて丁寧に出し入れを繰り返す。
「は、あ、んん……やめ」
「ねぇ田端さん、もしかして感じてます?」
「ンな、わけ──変態はお前ひとりで十分だっ」
「でも気持ちよさげだし、ちょっと勃ってきてますよ?」
 またまたそんなご冗談を。そう笑い飛ばしてやりたいのに、あながち全面否定できない自分がいるのも事実だ。
 だから聞こえなかったフリをしてスルーしていたら、上野はようやく指を引き抜いてポリウレタンを剥がした。
「じゃあ少し早いかもしれませんけど、巻きでいくって約束しましたからね」
 そんな約束を受け入れたつもりはねぇ、なんて反論する間もなく、ド変態は至極当然ってツラで次のアイテムを掲げてみせた。
 ソイツを見て凍り付く田端に、その笑顔であらゆる女を引っかけ得る後輩は事もなげにわざわざ紹介してくれた。
「さっき買ったサラミです」
「な──」
 サラミと言っても、カルパスみたいなヤツじゃなければ、スライスされたヤツでもない。直径3センチ以上、長さ20センチくらいある、ビールのお供に買ってきたはずのサラミソーセージだ。
「お前は馬鹿なのか!?」
「いえ、ただのクソ変態です」
「自称するな……!」
「認めろって常日頃から諭してるのは田端さんですよね」
「てか食いもんをンな遊びに使うんじゃねぇ!」
「大丈夫、ちゃんとあとで食べますよ」
 耳を疑った。
「食う──?」
「だってゴム被せますし。普段のセックスでもゴム取ったあと口に入れたりもしますよね?」
「いや上野、お前が何言ってんのか俺にはわかんねぇ」
「だから。だったら、田端さんの穴に入れたあと、ゴム取ってサラミ食ったって別に良くないですか?」
 コイツはクソ変態の上をいくぞ──田端は気が遠くなるのを感じた。
 比類なき変態だとは知ってたけど、まさかここまで極めてるとは思ってなかった。
「いいわけねぇ! ぜってぇ食わねぇそんなモン!!」
「いいですよ、俺が独り占めしますから。田端さんのこの」
 と、甘く弛緩した眼差しがどこに注がれてるのかは、この際考えまい。
「最高の穴を埋めたサラミを食うなんて、考えただけで興奮しますね」
 神様──
「あ、今度はラテックスにします?」
 もう何も答える気が起きなくてスルーしていたら、上野は勝手にどっちだかを選び、パッケージから出したサラミに手早くコンドームを被せて田端の穴に宛がった。
「ッ、いや、ダメだ! そんなモン埋められてたまるか!」
「え、今さら? そんなこと言わず、試しにちょっと入れさせてくださいよ」
「これは試しにちょっととかいうレベルじゃね、あっ! ダメだって……!」
 マニアの欲望ってのは恐ろしい。
 そりゃあ制止されたって聞かないくらいじゃないとマニアを名乗る資格はないのかもしれないし、その執着あっての変態の称号だ。
 だけどそれはあくまで傍観者として理解できる理屈であって、我が身に降りかかるとなれば呑気にしてられるわけがない。
 どんなにみっともなかろうが気にしてられないとばかりに、不自由な両手足を聞き分けのない子供みたいにバタつかせて暴れたら、もう田端さん! と辟易したように窘めた上野が、片腕で田端の両膝裏に体重をかけて見事に抵抗を封じてしまった。
 そうする一方で穴にセットし直したサラミの端を、今度は容赦なく押し込んでくる。
「この──変態がぁっ!」
「ありがたきお言葉」
 冗談じゃなくマジで罵ったんだからな今!! と念を押す間もなく直径3センチ強の肉棒で貫かれ、田端はノドを反らして胸を喘がせた。その上に降りかかる、変態の弾んだ声。
「すごいですよ、田端さんの穴。あんなに小さかったのに、こんなに広がってサラミがぴったり埋まってます」
「見てんじゃね、てか実況すんなクソ変態っ!」
「中はどんな感じですか? やっぱりキツイ?」
「当たり前……てかっ、んな奥まで入れんじゃねぇ!」
「だってまだ入るし、穴もまだ続いてるんですもん」
 穴が続いてんのは当たり前だ、どっかで行き止まりになってるわけがねぇ、そう言ってやりたいけど余裕がない。
「んっ、は、何動かしてんだよ……!?」
「こうしたほうが楽じゃありません?」
「気持ち悪、あ──あっ」
「犯されてるような気分になってます?」
「変態みてぇなこと訊くな、いや変態だった……ってかマジで、それ、やめ──!」
 コンドームのオイルで滑りながら、穴を前後するサラミが徐々に奥まで入ってくる。
 尻の中の感覚に意識を搦め取られ、田端は為すすべもなく息を乱した。粘膜を擦るリズムも圧される場所もランダムで、予測不能の刺激に正常な呼吸ができない。
「あぁ、このサラミをあとで食えるなんて……」
 田端は今一度、悩乱の裡に呟いた。
 神様──
 こんな状況に置かれれば、信じてなくたって祈りたくもなるというもの。それが日本人ってヤツだ。
 一体何が悲しくて後輩に両手足を、それもリーマンの仕事道具であるネクタイで縛られ、まるでAVみたいな格好をさせられた上、尻丸出しで指どころか食い物で犯されなきゃならねぇんだ?
 しかも、やってる当人は性的な目的じゃないことを考えると、ある意味無駄な辱めを受けてるとも言える。
 そう、これは決して性的な行為じゃない。
 なのにいつしか田端は、己の下腹に否応なく溜まっていく疼きを無視することができなくなっていた。
 肉の棒が穴を出入りし、硬くて粗い表面の質感がごりごりと中を抉るたび、腰の奥から未知の衝撃が突き上げてくる。
 何なんだこれ、まさかこんなものに感じてるのか?
 待て待て俺、尻を犯してるのはサラミだ──!
「ッ、あっ……埋めるだけなら、んなっ、動かすことねぇだろ……!?」
「ちょっと田端さん。完勃ちですけど、そんなにいいんですか? サラミが」
「んんっ、あぁ……だからサラミやめ」
 田端はシーツに頭を擦り付けて首を打ち振った。上野に言われるまでもなく己が既に万全の態勢なのは、もうわかってる。が、両手は左右の足首に括られていて自分で触ることも叶わない。
「田端さん、まさか経験者だったとかじゃないですよね」
「ふざけ──ンなわけね、馬鹿かっ」
「じゃあ、この穴を埋めたヤツはまだいないんですね?」
「今サラミが埋めてんだろ!」
「サラミじゃなくて、生身の話です」
「サラミと生身を掛けてんのか!?」
「いや、そういうわけじゃ……とにかくじゃあ、ちょっと一旦埋めちゃいますね」
 何が「じゃあ」なのか、何が「一旦」なのか皆目わからないが、上野はそう言うと太いサラミを田端の中に押し込んでしまった。
「あ──!?」
「すごい、全部入りましたよ」
「おま──マジかよ!?」
「サラミの味はどうですか? 田端さん」
「味なんかするかっ……もういいだろ、抜け!」
「抜くのは十分味わってからにしてあげようと思ったんですけど……」
「もう十分、もう十分だからっ」
「気が済みました?」
 気が済むべきは俺じゃなくてお前だ! と言い返したいのに言葉にならないのは、股間がもどかしく疼いてどうしようもないせいか。否、だからってサラミをそこに咥え込んでいたって苦しさからは解放されない。
「田端さんの閉じちゃった穴、ひくひくしてますね」
「実況すんな、てか閉じたっておま、抜けなくなったらどうすんだよ!?」
「ゴムの端っこ出てるから心配いりません。心ゆくまで穴の埋まり具合を楽しんでください」
「穴埋めてぇのは俺じゃねぇよな……!?」
「だから、もう出してもいいなら出しますけど」
「四の五の言わずに早く出せ!!」
 了解です、と声がして中の異物が引っぱられる感触に続き、己の出入口が押し開かれるのをリアルに感じた。
「っ──あ……」
「田端さん、サラミを排泄する気分は?」
「クソ変態が……」
「今は田端さんのほうが変態に見えますよ。こんなもの突っ込まれて勃起したと思ったら、丸ごと入れて排泄してんですからね」
「それ全部やったのお前……ん! あっ、動かすんじゃね……ぇっ」
 抜きかけたサラミを前触れもなく抜き差しされて、腰が跳ね上がる。
「そんなにこれが気に入っちゃったんですか? この穴は」
 穴に意志はねぇ──
 頭の隅で弱々しくツッコみながら、田端は再びサラミに犯されてさんざん喘がされ、ようやく抜いてもらえた頃には己の痴態を恥じ入る余裕すらほぼ消えかかってる始末だった。
 拘束された手足を力なく脱力させる田端の足元では、抜き取った肉棒からコンドームを剥がしたド変態後輩がだらしなく相好を崩していた。そのツラに、もはやイケメンの影はない。
「おい上野……」
「はい?」
「お前がその、俺が排泄したサラミを食いてぇんならもう勝手にすりゃいい──だから早くコイツをっ」
 と、括られた四肢をできる限り上野のほうに近づけてアピールする。
「解け、さっさと!」
「でも田端さん、その完勃ちのソレはどうする気ですか?」
「コレをどうするかは俺の勝手だっ」
「まぁそうなんですけど、どっちにしろまだ1段階残ってるんですよ」
「あぁ?」
「俺、穴埋め終わったって言ってませんよね?」
 
 
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